箕作山 

  • 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)

 




『コラプとトビウヲとにんにく』
 
こういう少うし寒くなった日の酒のあてには
コラプのつくるにんにくのしょうゆ漬けがうまい
彼は雨の日も風の日も
ヨコバの海へトビウヲをとりに行く
そしてトビウヲの羽をもぎり
自分の畠にばらまくのだ
その時間は毎日オウマガドキと決まっていて
やまの少年少女が必ず見に来る
調子のいい日には畠一面に羽が舞い降りる
コラプは若いときやま一番のトビウヲ漁のうまい男で
代々漁師の家で育った
ある日彼は二尋もあるトビウヲを捕って
胸をはって家に帰った
するとコラプの親父は笑いながらコラプに話した
「これでわしらはトビウヲ様は食えんじ」
コラプの家はそれからトビウヲを食わない
コラプは毎日トビウヲの羽をもぎり
静かに海にかえしてやる
空に飛ぼうとしている魚を飛べなくして生かしているコラプは
漁師仲間からはつまはじきだ
ただ、コラプの笑顔をみると
寄り合いでも何も言えなくなる
そして漁師の子どもたちはコラプが大好きだ
 
コラプはいつもトビウヲの羽でいっぱいになった乳母車を押しながら
ぬかるみだらけのあぜ道を歩く
僕もよく後ろをついていったが
コラプは一度も振り返らなかった
そうコラプは一度も振り返らなかったのだ
オウマガドキに羽は舞い散り
静かに土一面に舞い降りたのだった