台風23号

  • 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)

『ミララの実』
 
道祖神のマルじいさんは立ち木の裏で
黄色い少女の泣いているのを見て
足下に積んである石をつかんで投げた
その石は山のふもとの忘れ去られた用水池に落ち
そこに棲んでいるグマコの尻尾にあたった
グマコは目覚め、20年ぶりに寝返りをうった
用水池の半分はグマコの体で
用水池に大きな水しぶきがあがった
その音はボイラボイラの山おろしと同じくらい大きく
村中に響いたが少女の耳にしか聞こえなかった
少女は一目散におとにむかって走った
用水池を見て驚いた
池のまわりはミララの実でいっぱいだった
ミララの実を少女は急いで家に持ち帰り
病気の父親に食べさせた
父親はうまいうまいといって実をたくさん食べた
その夜は楽しかった
赤い父親は陽気に黄色い少女と歌い、踊った
お父さんのとっときの歌を少女に教えた
そして三日後父親は死んだ
けれども黄色い少女は元気だ
立ち木の裏で少女は
蝶々をてふてふと追いかけるのだ
そして父親のつくった歌をうたい
道祖神のマルさんに聞かせるのだ
 
妻は洗濯物を干しながらよくその歌をうたうが
僕にはどっかの工場の社歌にしか聞こえない