新潟で大地震
- 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)
『ドマテフの歌』
川沿いに歩くとドマテフの祠が右を向いていた
ヒッコはやまに行くときはこの道をいつも通るが
ドマテフの祠が右を向くのははじめて見た
ヒッコは祠が右にずれたあとにできた
黒い土のずれを覗いた
覗いてみて驚いた
そこには百匹の小さなドマテフがいた
ヒッコが耳をすましていると
百匹のドマテフの歌声が聞こえた
「もうすぐタギイのみねがくずれるだね」
「けんどなったことがしあわせんがい」
「あしたムナリがふられちゅうふな」
「けんどなったことがしあわせんがい」
「ゆるゆるいとしかよくならんらん」
「けんどなったことがしあわせんがい」
「あしたのあいてのあしたにチクバがよめらんてん」
「けんどなったことがしあわせんがい」
百匹のドマテフは50年分のやまのいいこととわるいことをいっきに話しているのだった
ヒッコは聞いているうちになにがいいことかわるいことかわからなくなってきた
そのうち百匹のドマテフは踊りはじめた
ヒッコは見入っているうちに鎌を落としてしまった
きゃしゃんというおとがして
百匹のドマテフはいっせいにヒッコを見上げた
そのつぶらな瞳ったらなかった
50年分でせいいっぱいという瞳だった
ヒッコじいさんはそのことをいつも村の悪ガキに話すが
ドマテフの祠は今は滑走路の下にある