明治は遠くなりにけり

  • 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)




『ひも』

ひもをつたってこの林についた
くもの巣にひっかかって気がついた
レンタル客のカウンターに
4つ置かれたビデオの中に
俺の大好きなパッケージが見えた
そりゃあ俺が涙を流した
あのさみしい日に見たやつだ
思うだけで何も言わず
「御返却はいつになさいますか」とぼそっと言う

ひもの結びをたぐりよせた
少年は期待に胸をふくらませ
結びをゆっくりとほどいて微笑む
その結びにだいじな人がいるとは知らず
御機嫌な少年はバイト代を全部コンビニの募金箱にいれて
この林をすたすた帰る

アンケートって何や
俺の他のことは聞きたくないのか
人を何やと思ってるんや

ひもをつたってやっと海に出た
最後の金で缶ビールを買って
「御返却は、えっと」と砂につぶやく