『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)
『みつくりやまヒコーキ』
みつくりやまのむこうがわに
行ったことがあるかい
こましゃくれた子どもに聞かれて僕は
自分の持ってきた紙ヒコーキがみすぼらしく思えた
理由もなく
僕は紙ヒコーキのおしりを折ってみた
「こうするとよく飛ぶんだよ」
こましゃくれた子どもは鼻で笑った
みつくりやまのふもとの大きな鉄塔
そのアブナイと書かれた看板の下で
僕らは向きあったままだった
「君もこうしてみるといいよ」
僕の声はふるえていた
こましゃくれた子どもはみつくりやまを見上げた
西日は鉄塔を赤くした
僕は目のはしにみつくりやまを見ていた
汗で紙ヒコーキが駄目になるような気がして
少しもちかえようとした時
新幹線の通るバラバラン、バラバランという音がした
みつくりやまのむこうがわへ
数秒で白い光が走った
高架下で犬が吠えた
こましゃくれた子どもは犬をちらっとみて
みつくりやまのむこうがわへ
行ったことがあるかい、とつぶやいた