比婆山へ

  • 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)




『やまのポラロウプド』

先輩カメラマンのヤギのヲフラが昼間教えてくれた
ポラロウプドという新式のフィルムがあって
その場で現像されて画像が浮かび上がるそうだ
90秒でゆっくりと画像が出てくるそうだ
軍用に開発されて
なかなか危険なこともあるそうだ
とくにポラロウプドでやまを撮ると90秒で30億年を見せるので大騒ぎだという
フラッシュのように噴火の光が輝いて
ぐにょぐにょコンニャクのように形が変わって何が何だか分からない
それでも音はしないのでまだ助かっている
何枚も撮ったが最後もよく分からない
白くなって消えてしまうのだ
だからやまとおんなはポラロウプドで撮らないほうがいいのだそうだ
僕はその話を聞いてから
ひとり餃子屋で呑みながらコンニャクのやまを思った
それからフラッシュのおんなを思った
週末に誘う映画のチケットをポケットから出して
煙草の先で火をつけて丸く穴をあけた
穴を覗くと水着でジョッキを持ったカレンダーが見えた
それからケータイの電源を切り
パクパクエビ餃子を食べはじめた
有線はおんなは海のようにと唄っていた
僕はおんなはおんなだよとひとりごちた