台風23号から24号
- 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)
『椿自転車』
ぐらぐらした椿の木の下には
自転車の骨が埋まってる
使い古した線路を八本並べて
僕らは静かに骨になった自転車を置く
親戚一同で土をかける
憧れて買った18段変速のサイクリング自転車
1段と18段しか使わなかった
パートに出かけるために買った赤い色の自転車
娘も大きくなって錆びて焦げ茶になった
自転車の骨は椿の木の下で
新しい街を走る日を夢見て
焼かれた体を休めながら
寒い冬の朝を思い出す
椿はぐらぐらした体を
肩を動かしながらおちつかせる
自転車の冬の朝の思い出を
養分にして冬を過ごす
そして自転車の骨の話をする
「君はいろんな場所に行けていいね」
「君は自分の根があっていいね」
やまの自転車はダンパーがなく
地表の動きを受け止めてきた
やまの椿は根をはって
地中の動きを受け止めてきた
ブレーキがききはじめて
はじめてそこで悲鳴をあげた