ローザルクセンブルグ

  • 『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)



『蜘蛛そりつど』

やまのふもとの大きな屋敷の
そりつどの君は蜘蛛愛づる君で
部屋中に蜘蛛をかう
蜘蛛の糸はあらゆるものにつながり
新月の夜に銀色に輝く
そりつどは夜には麦わら帽子に防虫網を持ち
街燈から街燈へ蛾をつかまえて歩く
夜がしらじらと明けるころ
そりつどは蛾を部屋中にばらまく
そして鱗粉にまみれて眠る
食事の後、そりつどの蜘蛛はまだ見ぬやまのことを話し合う

「おらの木はぎったぎたぎい、がらすんぬ」
「おいらの道はささとこのじいが、よくたきがしたのらで」
「みよこんだんて、なんがはらよんで」
「ええ、ええ」

そりつどの蜘蛛は大きくなるとやまに行く
満月の夜にタビタチはある
そりつどはその夜、笛を吹く
やまの蜘蛛はいっせいに巣を銀色に輝かせ
やまはまったくの白になる
年老いた斑猫が先導となり
ひとりの蜘蛛がやまへ流れる
その蜘蛛の糸のはしをそりつどは持ち
自分も行くようなふりをすると
蜘蛛は安心して風にのるのだ
そりつどはすぐにその糸をはなし
髪の毛を一本抜いて地面におく
やまの蜘蛛は銀色をなくし
闇の中でそりつどはひとりになる