普請場は

  • (1999年・旧稿です)



『20ページをあけ』


久しぶりにひらいた本の
鉛筆書きの濃さで福井の海を思いだした
あかいあかいあかいあかいなかの黒い線
民宿ライン
ガムテープだらけの浮輪
忘れていた
おばあちゃんもおとうちゃんもおかあちゃんもいもうとも
濃い花火の夏にいた
あかいディーゼル機関車の止まるホームで
僕はてのひらもある大きいオニヤンマをみつけた
おとうちゃんは帽子でそのオニヤンマをつかまえようとして
帽子のはしでオニヤンマを殺した
さみしく幸せな二人の男
あかい西日のホームに無言でたちつくした
あとにもさきにもおとうちゃんが殺したものはそれだけだ
20ページ以降は帰って家で読んだ
サマータイムブルースとよういうたもんだ     

おとうちゃんは父親を写真でしかしらない
小さな写真の唇を
おとうちゃんは絵の具であかくしてごはんを食べさせた
さみしく幸せな二人の男
くろいくろいくろいくろいなかの赤い線
背中をみたくて歩いた道
チョウチン燃えて踏みつぶす朝
昭和19年のページの濃い鉛筆書きの下に
あかいオニはいた