何百年もまえに、すでにかかれていたことから

『みつくりやまヒコーキ』より (1998年・旧稿です)






『雨落ち』

雨落ちの音ひびく
ぐったぐたのぐしゃぐしゃ
電気毛布でやな汗かいて
飛び起きた真夜中の坑夫
ただ、雨落ちの音を聞いた
人の声でなくてよかった、ほんまに
雨落ちの音は二階の住人の腋の下を流れて
破れた僕の袖口から地面に流れる
明日潜る穴の恐怖
前人未踏の改札口
ぐったぐたのぐしゃしゃ
靴下嗅いで
靴の裏誇って
太陽さがすシュウマツの坑夫
春先に口から鼻から雨水をたらし
余所行きの服をよだれかけのようにはおる
そのしぐさの音は隣のやつしか聞こえない
あるやつはそいつをネズミといった
あるやつはそいつをカラスといった
あるやつはそいつをダンゴムシといった
あるやつはそいつをカセットコンロといった
あるやつはそいつをウバグルマといった
いつまでもそこにいないもの
そのしぐさの音は隣のやつしか聞こえない
花冷えの雨落ちの音の夜に
静かに狂っている人と人
そのしぐさの音は隣のやつにこそつたわる